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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)208号 判決

東京都新宿区西新宿二丁目1番1号

原告

三和シャッター工業株式会社

代表者代表取締役

高山俊隆

訴訟代理人弁理士

廣瀬哲夫

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

松原至

田辺隆

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和61年審判第7434号事件について、平成3年6月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続きの経緯

原告は、昭和58年6月27日、意匠に係る物品を「建築用シャッターカーテン」とし、審決書写し添付別紙第一に示されるとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)につき、意匠登録出願をした(意願昭58-27708号)が、昭和61年1月31日、拒絶査定がなされたので、これを不服として、同年4月11日、審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和61年審判第7434号事件として審理したうえ、平成3年6月6日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をし、その謄本は、同年7月31日、原告に送達された。

2  審決の理由の要旨

別紙審決書写しに記載のとおり、審決は、本願意匠は、本願の出願前より広く知られているシャッターカーテンの形状に、本願の出願前より広く知られているエンボス加工による周知の迷彩模様(例えば、実用新案公開昭54-131372号公報の第1図、以下「例示意匠」という。)を施した程度にすぎず、本願意匠が例示意匠にはなかったシャッタースラットの傾斜部にまで模様を施す範囲を拡大したとしても、そこに格別の創作性は認められないから、本願意匠は、意匠法3条2項により登録することができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の認定中、本願意匠におけるシャッターカーテンの全体形状が出願前周知であり、本願意匠がそのような周知のシャッターカーテンの正面にエンボス加工による模様を施した態様のものであることは認める。

しかしながら、審決は、本願意匠及び例示意匠の正面に施される模様について、これらがいずれも周知の迷彩模様であると誤って認定し(取消事由1、2)、本願意匠の独創性判断を誤った(取消事由3)違法があるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(本願意匠の認定の誤り)

(1)  本願意匠に施された模様態様と同一か近似の周知の模様態様は、本願意匠の出願前には存在しない。本願意匠の模様態様は、これまで周知の迷彩模様(例えば戦闘機などに使用されているもの)と比較しても、造形性、規則性において全く異なるほか、例示意匠の斑点状の模様態様とも全く異なる。すなわち、本願意匠の正面(シャッタースラットの傾斜部を含む、本願意匠につき、以下同じ。)に施される模様態様は、別紙参考図記載のとおり、座った犬が上を向いているような抽象的形状(A)、鳥が羽根を拡げたような抽象的形状(B)、杖にまたがった魔法使いのような抽象的形状(C)及び犬の頭部のような抽象的形状(D)等、人為的に創作された具体的模様を適宜間隔をもって並べ、さらにこれらの模様同志のバランスを取るため、その間に様々な具体的模様を描いてできたものを1ピッチとし、これを繰り返して形成されるコントロールされた連続模様であって、造形的に一定の規則性を持った模様パターンである。そして、そのような模様態様は、シャッタースラットの正面平板部にエンボス加工され、その凹凸によって暗調子部分と明調子部分とがトーン差によって明確に識別できる外観を備えている。

(2)  迷彩模様とは、人の目を欺瞞することのできるような数種の不規則な塗り模様をいい、このような模様態様のうち、周知のものとしては、例えば軍服や戦車等に使用されているもののように、実際に周知となり、特定できる図柄のものをいう。

被告は、迷彩模様をもって、周囲と同調するような不規則な模様、あるいは、偶然的、自然的に生じた規則性の全くない模様を意味するとし、本願意匠の模様態様が迷彩模様に当たると主張する。しかしながら、本願意匠の模様態様が、人為的、創作的、造形的な規則的模様パターンであることは上記のとおりであり、これが周囲と同調するような不規則模様でもなければ、偶発的自然的に生じた規則性のない模様でもないことは明らかであるから、本願意匠の模様態様を迷彩模様であるとする審決の認定は誤りである。

(3)  本願意匠は建築用シャッターカーテンに係るものであり、願書に添付される図面は、原寸大の図面提出ができないという技術的制約から縮尺写真等の提出が許される一方、実物に近い縮尺のものを提示することを目的として提出される要部拡大参考図の検討は、意匠が実現される具体的物品の大きさのものとして判断されるべきであるという点からも、必要不可欠である。

しかるに、審決は、被告の主張するところから窺われるように、本願意匠の願書に添付した図面(代用写真を含む。)中の要部拡大参考図を検討せず、若しくはこれを軽視した結果、本願意匠をあたかも図面代用写真の大きさのものとして評価し、その結果、本願意匠の模様態様は前記(1)のようなものであるのに、周知の迷彩模様であって、例示意匠と同一若しくは近似しているとする誤りをした。

2  取消事由2(例示意匠の認定の誤り)

(1)  例示意匠を示す実開昭54-131372号の出願人は原告であり、例示意匠に描かれている不規則な斑点状模様は、元々シャッタースラットの正面にエンボス模様を施すという原告の創作技術を説明し、そこに施される模様を示唆するため、便宜的に用いたものであって、具体的な「模様」として描かれたものではない。

また、それが模様としての性格を有するとしても、そこに示されたとおりの斑点状模様と認定されるべきであって、上記1(2)の迷彩模様ということはできない。

そうすると、エンボス模様が迷彩模様とはいえない例示意匠をもって、そこに周知の迷彩模様が施されているとした審決の認定は誤りである。

(2)  例示意匠の模様態様は、本願の出願前わずか4年前に実用新案登録の公開公報に掲載されただけのものであって、日本国内において広く知られた形状、模様等に該当しない。その意匠が「日本国内において広く知られた」(意匠法3条2項)とは、単に当該意匠が知られうる状態に置かれたというだけでは足りず、少なくとも当業者の多くが現実に知っていたことを要すると解すべきであるのに、審決は、上記事実のみをもって、例示意匠が周知であると誤って認定した。

3  取消事由3(創作性判断の誤り)

(1)  審決は、本願意匠の模様態様と同一か近似の周知の迷彩模様は全く存在しないにかかわらず、本願意匠の模様態様が例示意匠のそれと同一又は近似するとの誤った前提に立って、本願意匠の創作が容易であると判断した。

しかしながら、例示意匠の斑点状模様は、本願意匠の模様態様と外観上明らかに異なり、また、例示意匠の模様態様が、被告の主張する規則性のない模様という意味で迷彩模様に当たるとすれば、本願意匠の模様態様は、造形性、規則性、連続性等を具えている点でこれと範疇を異にし、何れにしても例示意匠に基づく創作は容易ではない。審決は、意匠という美的外観を、迷彩模様という言葉で判断しているのであって、視覚的な判断をしていない。もし、このような判断が正しいとすると、迷彩模様という範疇に含まれるものは、未知の、これから創作される迷彩模様のすべてにつき、その創作性が否定されることになる。審決の創作の容易性判断は誤りである。

(2)  意匠の登録排除の要件として、創作容易性を規定している理由は、例えば水玉模様等のようなありふれた形状や模様であって、いろいろな物品に使用されているものをほとんどそのまま物品に現したにすぎない程度のものは、創作性を欠くことによる。

原告は、本願意匠と同日に他に4件の意匠登録出願をしている(甲第6号証の1~4)が、その内容をみると、そのうち意願昭58-27707号(甲第6号証の4)は、広く周知の亀甲模様を偏平状に変形させた模様態様であり、これについても創作性を認めて登録されている。すなわち、シャッターカーテン業界では、上記亀甲状の模様態様程度のものであっても、創作性のあるものと判断され、登録されている。本願意匠の模様態様は、この意匠を超えた工夫の施された独創性のある模様態様というべきであって、不規則な周知の迷彩模様をほとんどそのまま現した程度にすぎないものとは認められず、登録されてしかるべき創作性を有することは一見して明らかである。すなわち、本願意匠は、他の登録意匠にみられる創作性の判断基準に照らしても、独創性が認められるべきであるのに、審決はこれを欠くものと誤って判断した。

(3)  当業者は、例示意匠が公開されたとき、漸くスラットの一部である平面部に不規則な斑点状の模様等が施せるものであることを知りうる状態になったものであり、本願出願時において、本願意匠のような規則性のある抽象的な模様態様をスラットの傾斜部を含む全面に描くことは技術的にも木可能であって、これが建築用シャッター業界の実情でもあった。本願意匠によって、初めて規則性のある抽象的な模様をスラット全面に施したものが提示されたものであるのに、審決は、この点を看過した。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は相当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願意匠の構成態様は、願書添付の図面代用写真の適式な「一組の図面」によれば、普通のシャッターカーテンの構成態様において、正面側の全面に微細な明調子の淡いあやの斑点状の模様が現されていることが視認され、願書添付の意匠の理解を助けるため提出された要部拡大参考図及び使用状態参考図によって、初めてその模様の部分が拡大されたエッチング状(エンボス加工状)の明調子と暗調子による迷彩状の模様が認められる。

すなわち、迷彩模様とは、周囲と同調するような不規則な模様、あるいは、偶然的、自然的に生じた規則性の全くない模様を意味するが、本願意匠は、その要部である正面に一律に自然なごく薄くエッチングした態様(あるいは、エンボス加工による浮き上げ細工の模様)による調子の異なる組合せの不規則なパターンを現したものにすぎず、原告主張のような規則性を持った模様パターンということはできないから、これをもって迷彩模様とした審決の認定に誤りはない。

2  同2について

審決がエンボス加工による周知の迷彩模様の例示として示した例示意匠には、シャッターカーテンを構成するスラットの正面の平板部にエンボス加工された模様の一つが極端な遠近法で示されており、その模様が全体として、自然な蝕刻状のエンボス加工で明調子と暗調子によって現されており、上記本願意匠の模様と近似している。

そして、建築用外装や建築用板において、ごく薄い浮き上がり状の斑点模様又はこれに類する迷彩模様は周知であり(乙第5号証~第10号証)、例示意匠は本願意匠の出願の約4年も前に公開されたものであるから、例示意匠に示された上記模様が周知のものとした審決の認定は相当である。

3  同3について

以上1、2によれば、本願意匠は、本願出願前から広く知られているシャッターカーテンの形状に、エンボス加工による周知の迷彩模様を施した程度のものであり、シャッタースラットの傾斜部にまで模様を拡大したとしても、固有の特徴を奏するに至ったものとはいえず、その創作が容易であると判断した審決に何らの違法はない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  原告は、本願意匠の模様態様は、別紙参考図により示されるとおり、造形的に一定の規則性を持った模様パターンであると主張する。

甲第2号証により認められる本願の意匠登録願書及びこれに添付された図面(図面代用写真を含む。)及び願書添付図面中の要部拡大参考図を同要部拡大断面参考図の大きさに略等しく拡大複写し、これにA~Dの符号を付した図面(別紙参考図)によって、本願意匠を検討すると、願書添付図面中の要部拡大参考図には、確かに原告の指摘するAのパターン(座った犬が上を向いているような形)が4個存在することが比較的容易に認められるほか、注視すれば「木の枝」形ないし「入」字形(原告主張のB)が3個存在することが識別できる。しかしながら、原告主張のC、Dについては、その模様形体自体が複雑で具象的でないばかりでなく、周囲に存在する暗調子部分及び明調子部分との対比において、必ずしも容易にこれを識別することができない。そして、Aのパターンを比較すると、その犬の顔に見立てられる部分の右方向の暗調子のパターンには、2個の複雑な島状のパターンが存在するもの(スラット上段のもの、中段の右側Aのパターン)と、犬の顔に見立てられる部分の右側に上記のような島状のパターンがなく、小島が点在しているかのパターンが存在するもの(中段の右側、下段のAのパターン)との2種類のものがあることが認められる。

しかしながら、以上は願書添付図面中の要部拡大参考図に認められる3枚のシャッタースラットの限られた一部の写真による観察の結果であり、この模様パターンが本願意匠の要旨を構成する規則性を持つものであることは、本願願書及びその添付図面上認めることはできない。すなわち、本願願書の本願の意匠に係る物品の説明の項には、「建築用シャッターを構成するシャッターカーテンに関するものであって、該シャッターカーテンを構成する各スラットにエッチング状の模様を構成したものである。」との記載があるのみであり、本願願書に添付されたシャッタースラットのほぼ正面の一部を拡大した写真である要部拡大参考図は、拡大部分を特定する記載(意匠法施行規則(昭和60年12月11日通商産業省令74号による改正前のもの、以下同じ。)2条様式5備考14)がなく、繰り返し模様として一定の必要な単位体を明確に開示する記載(同様式5備考10)もないから、意匠の理解を助けるために必要がある場合に加えられる参考図(同備考12)としての意義を有するに止まることが明らかである。

このことからすると、原告の主張は、別紙参考図のように、本願意匠の正面のごく一部について、比較的特徴的な具体的形状の幾つかを指摘し、相当の注視を払って初めていえることであって、意匠の実現される具体的物品に施される本願意匠の実体を前提とすると、その主張のような模様態様を明瞭に認識することは不可能であり、まして連続的、規則的パターンが施されているものとは認められない。

結局、以上の検討によって認められる本願意匠の模様態様は、暗調子部分と明調子部分とからなる入り交じった淡いあやないし斑点状のものであり、偶然的、自然的に生じた規則性のない模様すなわちいわゆる迷彩模様としか名指しようがないものというほかはない。

原告は、被告が本願意匠を要部拡大参考図を除外して、本願意匠を評価した旨主張するが、審決の認定判断が要部拡大参考図を含めた本願願書及び添付図面に基づき、意匠の実体を検討した結果であることは、審決の説示自体から明らかであり、原告の主張は理由がない。

2  取消事由2について

甲第14号証によれば、例示意匠を示す実用新案公開昭54-131372号公報の第1図にはシャッタースラット3枚が遠近法によって図示されており、スラットの平面板部には、エンボス加工によって施される不規則な斑点状の模様が描かれていることが認められる。

同模様態様は、中央のスラットにおける斑点が上下のスラットにおける斑点より幾分大きく、統一性を欠くものであるが、いずれも斑点模様を示すほか、その模様はエンボス加工によって明調子部が暗調子部から浮き上がり、意匠の実現される物品の形状、大きさ等を考慮すると、引用意匠の正面の模様はエンボス加工による暗調子部と明調子部とが複雑に入り交じった不規則な模様となっていることが認められる。

そうすると、このような模様をもって迷彩模様と認定することもあながち不当とはいえない。

次に、例示意匠が、本願出願の4年前に実用新案公開公報に掲載されたものであることは当事者間に争いがない。

原告は、例示意匠の周知性のみを問題とするが、審決が周知の迷彩模様を示す1例として例示意匠を挙げたものであることは審決の説示自体から明らかであり、出願公開から本願出願までに4年間を経過している例示意匠の存在と乙第7ないし第10号証により認められる本願出願前建築物の外装や建築用板材において不規則な迷彩模様が採用されていた事実に照らせば、例示意匠を1例とする迷彩模様は本願出願前、当業者の多くが現実に知っていたと十分認めることができる。

原告の取消事由2の主張は採用できない。

3  同3について

(1)  本願意匠の模様態様がそれ自体としては、原告の主張するような造形性、規則性、連続性を備えた意匠として把握することはできず、迷彩模様の一態様としかとらえることができないこと及び例示意匠の模様態様を周知の迷彩模様の1例と認定することに妨げがないことは前述のとおりである。

したがって、両者はともに迷彩模様という範疇に入るものであり、両者が別個の範疇に属することを前提とする原告の主張は理由がない。

(2)  原告は、本願と同日に出願した他の意匠が登録されたことをもって、本願意匠にも登録されるべき創作性があると主張する。

確かに、成立に争いのない甲第6号証の1ないし4によれば、原告主張のとおり本願と同日に原告により出願された他の4件の意匠が意匠登録されたことが認められる。しかしながら、同号各証により認められる各登録意匠と本願意匠とを対比すると、これらは互いに別個の印象を与える別個の意匠というほかはないことが認められる。

したがって、他の登録意匠があるからといって、これとの比較において本願意匠の創作性を論ずる原告の主張は理由がない。

(3)  同(3)について

原告は、これまでの意匠がスラットの平板部にのみ模様を配したに止まるのに、本願意匠は、これをスラット傾斜部まで配した点に創作性を認めるべきであると主張する。

しかしながら、本願意匠の模様態様は、それ自体すでに意匠登録を受けることができないことは、叙上のとおりであり、このような模様態様を、観る者の必ずしも注意をひくことが少ない傾斜部にまで広げたからといって格別の意味はなく、また、これにより、本願意匠の視覚的印象を一変させるようなものでないことも明らかである。原告の主張は理由がない。

4  以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、審決に他にこれを取り消すべき事由も見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 三代川俊一郎 裁判官 木本洋子)

昭和61年審判第7434号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

請求人 三和シャッター工業株式会社

東京都千代田区神田神保町2-23尚美堂ビル703号

代理人弁理士 広瀬哲夫

昭和58年 意匠登録願 第27708号「建築用シャッターのシャッターカーテン」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願の意匠は、昭和58年6月27日に登録出願をしたものであって、願書の記載及び願書に添付した図面代用写真の記載によれば、その要旨は、別紙第一に示すとおりとしたものからなり、意匠に係る物品は「建築要シャッターのシャッターカーテン」である。

これに対して当審において示した拒絶の理由は、「本願の意匠は、本願の出願前より広く知られているシャッターカーテンの形状(例えば、日本国特許庁発行の公開実用新案公報所載の実用新案公開昭55-89796号の第1図に現されたシャッターカーテンの形状。以下例示1)に、本願の出願前より広く知られている(例えば、日本国特許庁発行の公開実用新案公報所載の実用新案公開昭54-131372号の第1図。以下例示2)エンボス加工による周知の迷彩模様を施した程度にすぎず、本願の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当する。」としたものである。

請求人代理人は意見書を提出して、本願の意匠ついて、例示1で示されたように周知のシャッターカーテンであり、外観上何ら顕著な特徴を見出すことができないが、そこに施されたエンボス模様の態様に特徴を有するものであり、すなわち、例示2で示されたエンボス模様は、フラットな模様であり、かつ、シャッタースラットの平面板部のみに施されたものである。これに対して本願の意匠は、エンボス模様を立体的に現し、かつ、シャッタースラットの傾斜部にも施した点に特徴を有するものであり、したがって、本願の意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当しない旨の主張をした。

そこで審案するに、本願の意匠の要旨は、別紙第一に示すように、底部を解放して略偏平台形状に折曲し両端部分に左巻の小円弧を形成し、これを複数枚連結してシャッターカーテンの全体形状を構成し、その正面にエンボス加工による迷彩模様を施した態様としたものである。この様なシャッターカーテンの全体形状については、その例を示すまでもない程に既に本願の出願前より当事者に広く知られているものと認められる。また、エンボス模様とは、そもそも浮き出し模様を意味するものであって、意見書に述べているようにフラットなエンボス模様は前記観点からはありえないし、さらに例示2の説明欄においても請求人代理人のいうフラットなエンボス模様である旨の記載もない、また仮に浮き出しの程度に差はあるとしても何らその意匠の創作の容易性に影響を与えるもでもない。そして、この種物品はその使用態様等を勘案すると、正面視した全体の構成態様に視覚上の主要部つまり看者の注意が最も惹かれるものと認められるから、両意匠は、看者が注意を最も惹かれ、かつ、全体に占める割合が最も多い部分であるシャッタースラットの正面平面板部に周知の迷彩模様を施しているものであり、その模様を施す範囲を全体に占める割合の少ないシャッタースラットの傾斜部までに拡大したとしても、特別本願意匠の固有の特徴を奏するに至ったものとはいえず、そこに格別の創作性を要したものとは到底いえない。結局、その使用態様から判断して、前記理由を超えてこれらの点について 別の創作があったものとは認められないから、請求人代理人が述べた、本願意匠のシャッタースラットの傾斜部にまで模様を施した態様に特徴があるとの主張は採用することができないものである。

してみれば、請求人代理人の主張にはすべて事由がなく、本願の意匠は、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと判断せざるを得ない。

したがって、本願の意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当し意匠登録の具備しないものであるから、登録することができないものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年6月6日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 建築用シャッターのシャッターカーテン

説明 左側面図は右側面図と対称にあらわれる。

〈省略〉

〈省略〉

別紙第二

〈省略〉

別紙参考図

〈省略〉

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